ファーストリテイリングは2019年8月期の決算において、過去最高益を三期連続で更新しています。海外ユニクロ事業の業績拡大が続き、2019年8月期は海外ユニクロ事業の営業利益が国内ユニクロ事業を初めて超えました。
海外ユニクロ事業の中でも、特に成長が見込めるのが中国大陸、香港、台湾を合わせた「グレーターチャイナ」です。中国は人口が多く、ファーストリテイリングは新規出店を続けることで、安定的に業績を拡大できると考えられます。
国内ユニクロ事業は海外ユニクロ事業に営業利益で抜かれましたが、依然として収益性は高く、成熟していると評価できます。ジーユー事業は若者をターゲットにしており、新規出店で業績の拡大が可能です。ファーストリテイリングは海外ユニクロ事業が中心になりそうですが、国内の事業に大きな問題があるわけではありません。
ファーストリテイリングの2019年8月期の決算
ファーストリテイリングの2019年8月期の決算は、三期連続で過去最高益を記録しました。国内ユニクロ事業の営業利益は減少したものの、海外ユニクロ事業、ジーユー事業は営業利益が大幅に増え、国内ユニクロ事業の収益性の悪化をカバーしています。
ファーストリテイリングの2019年8月期の売上収益、営業利益、税引前利益、当期利益は次のようになっています(単位は百万円)。
2018年8月期 | 2019年8月期 | 前期比 | |
---|---|---|---|
売上収益 | 2,130,060 | 2,290,548 | +7.5% |
営業利益 | 236,212 | 257,636 | +9.1% |
税引前利益 | 242,678 | 252,447 | +4.0% |
当期利益 | 169,373 | 178,046 | +5.1% |
小売業は少子高齢化、業種の垣根を超えた競争、ECの拡大などにより、業績を伸ばすことが難しい状況にあります。ファーストリテイリングの事業規模を考慮すると、売上収益、営業利益の増加率は非常に高いです。
ファーストリテイリングの2019年8月期の売上総利益率、販売費及び一般管理費率、営業利益率は次のようになっています。
2018年8月期 | 2019年8月期 | 前期比 | |
---|---|---|---|
売上総利益率 | 49.3 | 48.9 | -0.4 |
販売費及び一般管理費率 | 37.4 | 37.3 | -0.1 |
営業利益率 | 11.1 | 11.2 | +0.1 |
売上総利益率は0.4ポイント低下、販売費及び一般管理費率は0.1ポイント改善となり、営業利益率は0.2ポイント改善しています。営業利益率の改善については、販売費及び一般管理費に含まれない、「その他費用」の削減効果が大きいです。長期的に見ると、営業利益率は下落傾向にありますが、小売業の中では依然として高い数字です。
ファーストリテイリングのセグメントは、国内ユニクロ事業、海外ユニクロ事業、ジーユー事業、グローバルブランド事業の四つです。各セグメントの売上収益、営業利益、営業利益率は次のようになっています(売上収益、営業利益の単位は百万円)。
2018年8月期 | 2019年8月期 | 前期比 | ||
---|---|---|---|---|
国内ユニクロ事業 | 売上収益 | 864,778 | 872,957 | +0.9% |
構成比 | 40.6 | 38.2 | -2.4 | |
営業利益 | 119,040 | 102,474 | -13.9% | |
構成比 | 48.5 | 37.5 | -11.0 | |
営業利益率 | 13.8 | 11.7 | -2.1 | |
海外ユニクロ事業 | 売上収益 | 896,321 | 1,026,032 | +14.5% |
構成比 | 42.1 | 44.9 | +2.8 | |
営業利益 | 118,897 | 138,904 | +16.8% | |
構成比 | 48.4 | 50.8 | +2.4 | |
営業利益率 | 13.3 | 13.5 | +0.2 | |
ジーユー事業 | 売上収益 | 211,831 | 238,741 | +12.7% |
構成比 | 10.0 | 10.4 | +0.4 | |
営業利益 | 11,774 | 28,164 | +139.2% | |
構成比 | 4.8 | 10.3 | +5.5 | |
営業利益率 | 5.6 | 11.8 | +6.2 | |
グローバルブランド事業 | 売上収益 | 154,464 | 149,939 | -2.9% |
構成比 | 7.3 | 6.6 | -0.7 | |
営業利益 | -4,115 | 3,685 | – | |
構成比 | -1.7 | 1.3 | – | |
営業利益率 | -2.7 | 2.5 | – | |
合計 | 売上収益 | 2,127,394 | 2,287,669 | +7.5% |
構成比 | 100 | 100 | – | |
営業利益 | 245,596 | 273,227 | +11.3% | |
構成比 | 100 | 100 | – | |
営業利益率 | 11.5 | 11.9 | +0.4P |
ファーストリテイリングの決算で重要な点は、海外ユニクロ事業の営業利益が国内ユニクロ事業の営業利益を超えたことです。海外ユニクロ事業の営業利益の増加率は高く、営業利益率でも国内ユニクロ事業を上回っています。
ジーユー事業では、早期発注や素材の集約による原価率の改善、値引率の低下により、営業利益率が劇的に改善しています。
国内ユニクロ事業は依然として高収益ではあるものの、成長性という点では、海外ユニクロ事業、ジーユー事業への期待が大きいです。今後、ファーストリテイリングの設備投資は、海外ユニクロ事業、ジーユー事業へとシフトして行きそうです。
海外ユニクロ事業はグレーターチャイナが成長の軸
ファーストリテイリングの2019年8月期の決算において、海外ユニクロ事業の営業利益が国内ユニクロ事業を超えたことは大きな変化です。海外ユニクロ事業の中でも、中国大陸、香港、台湾を合わせた「グレーターチャイナ」が成長の軸です。
ファーストリテイリングは海外ユニクロ事業の地域を、グレーターチャイナ、その他アジア・オセアニア、北米・欧州の三つに分けています。2019年8月期の各地域の売上収益は、グレーターチャイナは502,565百万円、その他アジア・オセアニアは306,510百万円、北米・欧州は216,956百万円です。
グレーターチャイナとその他アジア・オセアニアを合わせると、海外ユニクロ事業の売上収益の8割ほどになり、ユニクロ海外事業の中心はアジアです。
ユニクロの衣料品がアジアでよく売れていることに驚きはありません。
日本に来る外国人観光客の数は年々増加していて、外国人観光客の7~8割は東アジア・東南アジアから来ています。アジアから来た観光客は、日本で化粧品、医薬品、生活雑貨、お菓子など、ライフスタイル商品を購入しています。
ユニクロが販売する衣料品もライフスタイル商品なので、アジアでよく売れるのは順当です。日本に来る外国人観光客が多い国には、出店のチャンスがあります。
海外ユニクロ事業の中でも、グレーターアジアは大きな成長が見込めます。中国は経済成長が続いており、人口は日本の10倍以上あります。店舗を出店すれば、売上が増えるという、拡大の時間がしばらく続くのではないでしょうか。店舗数が増えれば、売上が増えるだけでなく、効率化が進み、収益性の改善も期待できます。
海外ユニクロ事業の営業利益は国内ユニクロ事業を超えましたが、今後は、急速に差が開くのではないかと考えられます。国内ユニクロ事業と海外ユニクロ事業の差が拡大することについては、特にネガティブな点はないと思います。
国内ユニクロ事業は新規出店よりEC・オムニチャネルに期待
国内ユニクロ事業は営業利益で海外ユニクロ事業に抜かれたものの、依然として高収益です。国内ユニクロ事業においては、店舗数を増やして規模を拡大する戦略から、ECと実店舗を活用したオムニチャネルへとシフトして行くと考えられます。
ユニクロの過去5年間の店舗数の推移を見ると、店舗数は緩やかに減少しています。2015年8月期は841店舗あったのが、2019年8月期には817店舗まで減っています。また、大型店は208店舗から230店舗へと増えた一方、標準店は603店舗から544店舗へと減っており、店舗の大型化が進んでいます。
ユニクロの標準店が減っていることは、ユニクロがお客さんの方へと近づくことに価値を見出していないと見ることができます。店舗数を増やして、お客さんに近づくほど商品が売れやすくなりますが、ユニクロはそのような方針ではありません。
なぜユニクロが店舗数を増やさないかについては、ECが普及することにより、店舗数を増やすメリットが減ったからではないかと考えられます。ユニクロは店舗数を増やすのではなく、ECを強化するべきだと判断したのではないでしょうか。
2019年8月期の国内ユニクロ事業のECコマースの売上は832億円(前期比32.0%増)、売上構成比は前期の7.3%から9.5%へ上昇しています。
2019年8月期の国内ユニクロ事業全体の売上収益(Eコマースを含む)の増加率が0.9%であるのに対して、Eコマースの増加率は32.0%です。実店舗とEコマースの売上の増加率にこれほどの差が付くと、実店舗を増やすことへの意欲が低下してしまいます。
国内ユニクロ事業においては、店舗数を増やすのではなく、EC、ECと実店舗が連携したオムニチャネルが成長のカギになりそうです。国内ユニクロ事業は大きな成長が期待しにくいと見られていますが、ECで日本全国に商品を販売するようになれば、まだまだ成長する余地はあるかもしれません。
ジーユー事業は国内ユニクロ事業とは異なり規模の拡大が可能
ジーユー事業は若者向けに低価格・高品質の衣料品を販売する事業で、国内ユニクロ事業よりもターゲットが若いです。ジーユー事業も国内が中心ですが、国内ユニクロ事業とは異なり、店舗数の拡大が続いています。
ジーユー事業の過去5年間の店舗数の推移を見ると、安定的な増加が続いています。2015年8月期は319店舗だったのが、2019年8月期には421店舗まで増えています。ジーユー事業では継続的な新規出店が見込まれており、店舗数の増加は今後も続きます。
国内ユニクロ事業の店舗数が減り、ジーユー事業の店舗数が増える理由は、ターゲットにしている客層の違いではないかと考えられます。
ユニクロはブランドの歴史が長く、お客さんとの関係性も強いです。ユニクロを利用するお客さんは、40代から50代も多いです。一般的に、中高年のお客さんはファッションへの関心が低く、店舗へ買い物に出かける機会も少ないです。
一方、ジーユーはブランドの歴史が短く、お客さんとの関係性も弱いです。ジーユーを利用するお客さんは若者が多く、新しいお客さんを取り込めるチャンスは大きいです。高校生、大学生は、ジーユーにとって重要な新規顧客です。高校生、大学生を取り込むためには、店舗数は多ければ多いほど良いです。
ジーユーの店舗は、デジタルマーケティングを推進するという点でも価値があります。中高年のお客さんが多いユニクロよりも、若者のお客さんが多いジーユーの方が、デジタルマーケティングが受け入れられやすいです。
ジーユーで効果が得られたデジタルマーケティングをユニクロに導入することで、デジタルマーケティングをスムーズに進めることができます。
ジーユー事業では店舗数の増加が続いていますが、高齢化社会の進行、人口の減少、ECの拡大などを考えると、将来的には実店舗の価値が低下するリスクはあります。国内ユニクロ事業では実店舗の価値が低下していて、店舗数は減少しています。
ジーユー事業は国内ユニクロ事業を参考にして、実店舗の価値が低下しない取り組みを進めたいところです。ECとの連携は実店舗の価値を高める施策の一つで、実店舗からECへとお客さんを誘導すれば、より多くの売上を獲得できます。
海外ユニクロ事業とジーユー事業の好調で業績の拡大は続く
国内ユニクロ事業の成長は鈍化していますが、海外ユニクロ事業、ジーユー事業には成長力があり、ファーストリテイリングの業績は今後も拡大が続くと考えられます。
ファーストリテイリングがお客さんに提供する価値は、機能・価格のバランスに優れた衣料品です。ファーストリテイリングと同じような衣料品を作る企業が登場しなければ、ファーストリテイリングの商品は売れ続けるのではないでしょうか。
日本国内で売れているファーストリテイリングの衣料品は、アジアを中心に、海外でも売れています。化粧品、医薬品、お菓子など、日本の一部のカテゴリは海外のお客さんに支持されており、ファーストリテイリングの衣料品もそうした商品の一つです。
ファーストリテイリングはアジアでチェーンストア展開を進めることで、安定的に業績を拡大できると思います。中国ではすでに成功を収めていますが、インド、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど、アジアには人口が多い国が他にもあります。
ファーストリテイリングの衣料品が日本、中国で売れるのであれば、他のアジアの国でも売れるのは間違いないと断言してもよいのではないでしょうか。
ジーユー事業は売上、店舗数の増加が続いており、海外ユニクロ事業と同じように成長が期待できます。ジーユー事業は国内ユニクロ事業よりも客層が若く、若者は次々にマーケットへと参加してきます。
ジーユー事業の売上の増加率は二桁を維持しており、しばらくは新規出店による規模の拡大で業績を拡大できそうです。
国内ユニクロ事業の成長率は鈍化していますが、これはユニクロの商品の価値がなくなったというよりは、ユニクロのお客さんが高齢化した、ユニクロの商品が行き渡ったと見ることができます。国内ユニクロ事業で売上、店舗数が大きく増えることは期待しにくいものの、優れた衣料品は今後も安定的に売れると考えられます。
海外ユニクロ事業、ジーユー事業は成長が続き、国内ユニクロ事業は成熟しています。国内ユニクロ事業の成熟をネガティブに評価する意見もありますが、ECへの投資を進めており、ECで新しい成長の方法を見つけられる可能性もあります。