ワークマンは店舗の在庫を活用して、店舗受け取りEC(クリックアンドコレクト)を強化

1月27日、ワークマンは店舗の在庫を活用して、店舗受け取りEC(クリックアンドコレクト)を強化することを発表しています。新規ECサイトがオープンするのは3月16日で、これまで出店していた楽天は2月末で撤退する予定です。

ワークマンは付加価値の高いPB商品を、配送コストの安い店舗受け取りECで販売して、ネット通販企業に対抗する狙いです。現在のところ、ワークマンとネット通販企業が競合しているような感じはありません。ただ、長期的に見ると、ネット通販サイトはワークマンの競合になるのかもしれません。

近年、ワークマンはPB商品が人気になり、業績を急拡大しています。配送コストが安い店舗受け取りECが拡大すれば、ワークマンの生産性はさらに向上します。

店舗受け取りECの概要

1月27日、ワークマンは店舗の在庫を活用した、店舗受け取りEC(クリックアンドコレクト)を強化することを発表しています。店舗受け取りの新しいECサイトは、3月16日にオープンする予定です。

ワークマンは店舗受け取りECを本格化する理由として、全売上の5割を占めるPB製品ラインが強化されたことを挙げています。ネット通販企業に定価で負けないPB商品が揃い、作業服のPB商品には10年間の供給保証が付くとのことです。

ワークマンは店舗受け取りECを強化する背景を次のように説明しています。

店舗受け取りECを強化する背景
  • 今後10年で400店舗を出店
  • 既にECのお客さんの67%が店舗受け取りを選択
  • 全国の店舗網を活用した配送コストの安いEC
  • クリックアンドコレクトは世界的に拡大

ワークマンはAmazonなど、ネット通販企業に配送コスト、配送時間で負けないようにするため、店舗受け取りECを強化します。

店舗受け取りECの強化と同時に、2月末での楽天からの撤退が発表されています。楽天から撤退する理由については特に記述はなく、楽天のお客さんも自社の店舗受け取りECで買い物をしてくれると見込んでいます。

店舗受け取りECの初年度の売上目標は30億円で、注文の8割が店頭受け取りです。

なぜ店舗受け取りECを強化するのか

ワークマンは店舗受け取りECの強化を発表しました。

ワークマンがECではなく、特に店舗受け取りECを強化する理由は、ワークマンにとって最適なECであるからだと考えられます。

店舗受け取りECのメリットは、配送コストが安く、収益性が高いことです。店舗受け取りECはお客さんの自宅に商品を届けないので、送料が掛かりません。また、店舗では試着、サイズ変更もできるので、お客さんの満足度アップにも繋がります。

ワークマンによると、ECのお客さんの67%が店舗受け取りを選択しており、注文の約7割は店舗に在庫があるとのことです。店舗受取りの選択率、在庫の保有率ともにある程度高く、成功する下地があります。

ワークマンがフランチャイズで店舗を展開していることも、店舗受け取りECの強化と関係があります。2020年3月期第2四半期末時点では、ワークマンの店舗数は848店舗で、内訳はフランチャイズ店舗が795店舗、直営店が53店舗です。

ワークマンがお客さんの自宅に商品を配送するECを強化すると、フランチャイズ店舗の売上を奪うことになります。ワークマンとしては、店舗受け取りECを強化して、フランチャイズ店舗の売上を増やす方が好ましいです。

ワークマンが店舗受け取りECを強化する背景には、PB商品のラインが強化されたこと、送料が安く、収益性が高いこと、既にうまく機能していること、フランチャイズシステムとの相性が良いことなどがあります。

なぜネット通販企業を意識するのか

ワークマンは店舗受け取りECのニュースリリースの中で、Amazonを含む、ネット通販企業に言及しています。

「構造的にネット通販専業に勝てる体制を築く」、「店舗在庫の店舗受け取りならば、配送コストと時間でネット通販大手に負けない(特に自社宅配化を進めるAmazonに対して、宅急便利用の直送では勝ち目がない)」などです。

付加価値の高いPB商品の販売が好調なワークマンが、ネット通販企業を意識することは意外な感じです。人気のPB商品を持つワークマンであっても、将来的にはAmazonなどのネット通販企業が競合になるということなのかもしれません。

ワークマンの業績が好調な理由は、ワークマンでしか売っていない、付加価値の高いPB商品があるからです。お客さんはワークマンに行こう、ワークマンで買おうとなるので、他の店舗は競合になりません。

ワークマンがネット通販企業を意識する背景には、PB商品の優位性が薄れる可能性が考えられます。

ワークマンの作業服が人気になっていることを受け、ホームセンターは作業服の販売を強化しています。ホームセンターが商品開発に注力すれば、ワークマンと同じようなPB商品を持つようになるかもしれません。

ワークマンは業績が好調ですが、ネット通販企業との競合を意識して、店舗受け取りECを強化するのは堅実です。店舗受け取りECは収益性に優れるとともに、固定客の育成にも効果があり、ネット通販企業への対抗策になります。

なぜ楽天から撤退するのか

ワークマンは店舗受け取りECのニュースリリースの中で、2月末で楽天から撤退することを発表しています。

楽天は3月18日より、注文金額3,980円以上で送料無料になる仕組みを導入する予定です。ワークマンの撤退と送料無料の導入の時期が近いですが、関係はなさそうです。

ワークマンが楽天から撤退する理由は、お客さんの自宅に商品を配送するECを減らし、店舗受け取りECを強化するためだと考えられます。

ワークマンによると、楽天はEC全体の売上の2割を占めており、楽天の注文の9割以上が自社PB商品であるとのことです。ワークマンは楽天から撤退した後も、大半のお客さんが自社の店舗受け取りECに移ってくれると見込んでいます。

店舗受け取りECには、配送料が掛からずローコストであること、既にうまく機能していること、フランチャイズシステムとの相性が良いことなどのメリットがあります。ワークマンとしては、楽天で売れるよりも、自社の店舗受け取りECで売れる方がよいです。

ワークマンは楽天から徹底しますが、顧客接点として楽天がなくなることには、惜しい点もあります。楽天は巨大な会員基盤と楽天スーパーポイントを持ち、購買力のあるお客さんがたくさんいます。ワークマンは楽天を通じて新規顧客を獲得し、自社ECへと送客することもできます。

楽天を撤退せずに、店舗受け取りECを強化する選択肢もあったのではないかと思います。ワークマンは楽天からの撤退を決めたことで、お客さんの自宅に商品を配送するECは極力減らし、店舗受け取りECを増やそうとする意志が感じられます。

小売業の理想を突き進むワークマン

ワークマンは付加価値の高いPB商品が人気となり、業績を急拡大しています。今回、ワークマンは店舗受け取りECの開始を発表しました。

小売業が業績を伸ばすために不可欠なものは、付加価値の高いPB商品、実店舗とECサイトが融合したオムニチャネル(店舗受け取りECを含む)です。ワークマンはPB商品、店舗受け取りECの両方を持つことで、小売業の理想に近づいています。

競争環境の変化により、PB商品の重要性はさらに高まっています。

業種の垣根を超えた競争、ECの拡大により、お客さんは似たような商品をたくさん目にするようになりました。多くの商品の中から選ばれるためには、付加価値、独自性を持つ商品でなければなりません。

ユニクロ、ニトリ、セブン-イレブン、業務スーパーなど、人気の小売業は付加価値の高いPB商品を持っています。ワークマンも付加価値の高いPB商品がお客さんに認められたことで、急速に業績を拡大しています。

実店舗とECサイトが融合したオムニチャネルは、PB商品と並び、小売業の成長に不可欠なものです。オムニチャネルはお客さんの買い物の利便性を向上させ、買い物回数、購入点数の増加が見込めます。

ワークマンは付加価値の高いPB商品を持ち、今回、店舗受け取りECを強化することを発表しました。付加価値の高いPB商品が店舗受け取りECで効率よく売れれば、ワークマンの生産性は大きく向上します。

店頭受け取りECはこれからの成長が期待されていて、ワークマンの店頭受け取りECがうまく機能するかどうか、多くの小売業が注目しています。